レナルド
- torygoya
- 2024年7月19日
- 読了時間: 6分
思ったことをそのまま口にすれば、人間関係はあっという間に崩れていく。
それを理解した小学生の私は、無印の小さなノートに丸くてポップなキャラクターを生み出し、言いたいことを言わせて気分を紛らわしていた。当然、このノートは誰にも見せないまま、ガムテープでぐるぐる厳重に巻きつけて封印されたのち、燃えるゴミに捨てられた。SNSがなくてよかった。
中学校に進学した頃には、私の話相手は人の形をするようになった。
鳥原を基準にして、犬原 猫原……と、実際には本名の名前をもじったネーミングで、男女2名のキャラクターを作った。
男のキャラは私とは正反対の「理性」として。女は私と共に共感する「惰性」として。別人格として作られた彼らこそが、ここから長い付き合いになる「レナルド」の原型である。
そこからは脳内会議といった様相で、台本のようにセリフのト書きで心のうちを書き殴った。
当然、このノートは誰にも見せないまま、ガムテープでぐるぐる厳重に巻きつけたあと、燃えるゴミに捨てられた。これを繰り返していた。リングノートは燃えるゴミに捨てられなくて厄介だった。SNSがなくてよかった。
一応断っておくが、そこまで黒い内容ではない。自分の中の熱い部分を他者に見せることが恥ずかしく感じるお年頃だった。そんなfateの緑の弓兵のような性格をしていたものだから、それを誰にも語ることなくノートにぶつけることが多かったのだ。黒どころか私の色々な夢が轟々と赤く燃えていた。それでもこれが私の中で黒歴史として認識されてしまっているのは、まだ上記の厄介な性格が残っているからだろう。その中にすでに叶っている夢があったとしてもだ。
私は中学生のころの部活で本気でコンクール金を取ろうとしていたし、だからこそ銀で終わった時「まあ取れないよね」という空気に表では同調しつつ心底呆れた。それを書いた。
高校で宗教のような狂った強豪校に入り、むしろ金は当然といった空気感に晒されていた頃は、その手のキラキラした想いに加えて普通に愚痴をもりもり書いた。黒さで言えばこの時代が最もドルビーシネマだ。SNSがなくてよかった〜。
丁度このころ、レナルドと同じく長い付き合いであるナメクジペンギンの原型「ちょっと緩いタッチのペンギン」が出来上がった。
まだ軟体生物ではなかったが、当初からシルクハットをかぶっている。
主な相違点といえば、シルクハットといえば赤いリボンだろうというどこからかきた先入観によって、まだカラーリングが赤かったことだ。
犬原も猫原も(仮名である)私に質問をする側に徹し、私を否定することはあれど肯定することはしなかった。自分で聞かせて自分で肯定させる行為はあまりにもダサいと私自身が自覚していたからだ。
ーーー
ある日、悪意ある意見を聞いた。
「ただの絵に 本気になる理由がわからない」といったことだ。
否、自分でそう思ったのかもしれない。
ふと自分を襲ったこの虚しさに対し、そんなわけはないと怒った。
創作世界はあるのだ。
どういう経緯で、そこに辿り着いたのかも覚えていない。
ただこの漠然とした憤りが、私を「第四の壁」という単語のWikipediaに導いた。
元から感じてはいたこの概念に名前がついた時、私の中に仮説が生まれた。
舞台上のキャラクターは客席を認識することができない。
仮に今私のいるこの世界が物語の中だとすれば、私から客席が見えないのは当然。
この世界が本当に物語でないことを、物語の中からは証明することができない。
逆に言えば、物語として我々が見ている虚構は、我々と同じ現実世界の一つなのではないか?
我々のいるこの現実は、誰かからすれば虚構なのか?
この壁を守る組織が必要だ。私は「Scéalpax」シュケルパークス、という組織を創った。
Scéal は話。paxは平穏。物語の平穏を守る、といったようなネーミングで、これは異世界ネーミング辞典的な本から抜粋した。
そこに、かねてより私の理性の具現化として存在していた黒髪の男を改めて「暦本直人」と名付けてリーダーに任命した。私の物語の主人公を任せるにはこの男しかいないと思った。スターシステムである。
この時、「異物によって変えられそうになった物語を元の世界に戻す」というのがシュケルパークスの基本設定としてあったので、「暦」(世界)を「本」(本来の姿に)「直人」(直す人)という意味も持たせている。
正直に言えば中学生時代に顔が大好きだった某バンドのギターの名前をそのままもらってもいる。
少し経って、現在と同じく青髪のビジュアルと暦本の日本語名にしっくりこなかった私は、このキャラクターを暦本直人からもじった「レナルド」という名前に上書きする。
暦本直人は暦本直人として、別の高校青春物語の登場人物として引き続き私の創作に出ることとなるが、それはまた別の話だ。ここでは割愛。
※というか暦本直人が先かレナルドが先か正直覚えていない。
ともあれ、このように「レナルド」は「壁の向こう側の存在」として地道に組み上がっていった。
彼の物語を完成させようと踠いては諦め、また立ち上がっては設定を組み替え、を長い年月繰り返してきた。故に「完成作品」の形をしているものが今まで存在していなかった。
Scéalpaxもつい最近、かつては組織図まで描いていたのに物語を組み変える過程で容易く消滅した。
今も正直、「ここは設定として甘い」と思うことがたくさんある。未来に閃くであろう素晴らしきアイティアを、今閃いたこの唐突なアイディアが邪魔しないだろうか?という不安をとりあえずゴミ箱にぶち込みながら描いている。
今更この男の手を離すつもりもないが、やはり今回のコミティアに向けて本ができたというのは感慨深い。
描きたいことの2/3も伝わらないような出来かもしれないが、そもそも2/3も描きたいことを描けてもいないのだから伝わるわけがないのだった。
それでも描き終えた。この夏のコミティアを境に、やっと始まるんだろうなという思いがある。
レナルドはこの生涯をかけて遊んでいく趣味の中心人物としては申し分ないキャラクターだ。
まあふとした瞬間に、また上書きされてしまうかもしれないが。
最近なんか知らん男も生えてきたし。
まあそれはそれで。
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