御苑と少年
- torygoya
- 2024年3月13日
- 読了時間: 3分
昨日、久々に新宿御苑に足を運んだ。
いよいよ春かといった上着要らずの気温と雲なき青空。私が花粉症なら家に引きこもっていたところだが、幸いにもそのような傾向は今年も見られず、意気揚々と家を出て、少し強い風に髪を盛大に煽られながらこの公園にやってきた。
新宿御苑は好きだ。入園に五百円かかるが、有料公園の良さはまず有料であるが故に変な人が少ないところにある。おまけにここでは酒類が禁止されているので、酔っ払いに出くわすこともない。ここから先、新宿御苑はお花見シーズンで激混みするが、年パス(2000円)を持っていればすぐに入園出来るし、前述の通り酔っ払いはいないので比較的平和なお花見会場となっている。まあそんな混んでる時には行かないけど。混んでるし。
さて、何をしにきたのかというと、激務から離れ、のんびりしにきたのだ。
御苑の地図が頭に入っているわけではないのでうまく説明できないが、少し進んだ丘の上に小さなお茶屋さんがある。私はそこでいつも美味しいお茶を飲みつつ、丘の芝生にそのまま寝転がったりする。それ用の小さなレジャーシートもこの前買ったけど、普通に家に置いてきてしまった。
寝転がったりというのは大袈裟に言った。実際は足を放り投げてべたっと座っていると、近くの木の下でしゃがみ込む少年が目に入った。
近くに親らしき存在はない。全く動こうともしないので、少し心がざわついた私は立ち上がり、近づいてみる。
近づいて、すぐにわかった。
アリを見ている。
アリが、でかいハチを巣に入れようとして、入らないという状況を見守っている。
これはなかなかにワクワクするシチュエーションであろう。
「ああ〜 すごいな」
思わず声に出すと、少年が私を見上げた。
「大物だね」
続けてそう言うと、少年は黙って頷く。そしてこう言った。
「くまばち」
ハチを見ると、なるほど確かにもこもこしている。このハチの種類を言っているのだと理解した。
「多分春だって勘違いして出てきちゃったやつ」
そう少年が説明してくれるまで、この冬の季節にハチを見なかったことに気づいた。
そりゃそうか。つまり冬眠から早めに起きてしまったこのハチは、何らかの理由で力つき、早々に土に還ろうとしているのだった。セミよりも儚い。
アリは律儀にハチを分解し、巣の中に持ち帰る工程に移った。
ん?と私は疑問に思ったことを容赦無く少年にぶつけた。
「アリは?アリも春だって勘違いして出てきてる?」
少年はノータイムで「ううん」と言った。
「アリは冬眠しない。変温動物だから」
「あー。トカゲ的な」
ニヤリと少年が笑う。
「そう。だけど寒いと動けなくなるから冬の間はあんま見ない」
「へえ」
よく知っている。このような少年が、夏休み科学電話相談室を齧り付きで聞いていたりするのだろう。
それから二人でしばらくアリを見た。
「たっくん」と、母親らしき女性に呼ばれるまで無言で眺めていた。
「たっくん」と別れ、私はもう少しその丘でのんびりSNSを眺めていたが、突然甘い飲み物が飲みたくなり、御苑の中にあるスタバに向かった。
ホワイトモカに変更した激甘ミルクティーを頼み、席でその味に若干の後悔を感じながら再びスマホをスイスイ眺めていると、遅れて先ほどの少年家族が入ってくるのが横目に見えた。
少年と目があい、無表情で手を振ってきた。
それに振り返す。母親が申し訳なさそうに会釈をしたので、それも返す。
ああ、友達はこのように生まれる。久方ぶりに味わう感覚だった。
まあ実際昨日は大雨だったし、普通に寒かったし、たっくんなんてもちろんいないし、そんな日はなかったのだけど。
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